Piroと歩む歴史 ~1984年6月~ 5回目

5)1984年6月(2歳)

 1984年6月14日から6月28日にわたって発生した熊本県香株式会社製造の真空パックからし蓮根に起因するボツリヌス中毒が発生し36名が中毒症状に陥りうち11名が死亡した食中毒が起きた。その事故に関して調べてみた。

 

 6月23日に長崎市内の患者でボツリヌス中毒の疑いの患者発生。24日に宮崎市郡医師会病院に複視、構音障害、呼吸困難を訴える父子2名の入院があった。24日夕刻には入院した父子の親戚で同居の母子2名が同じ症状で入院。宮崎県衛生部ではただちに4名の共通喫食食品の調査を行い真空パックからし蓮根を原因食と推定。25日に長崎県から同食品を食べているとの回答が得られた。25日に三香株式会社製造の真空パックからし蓮根が推定原因食品でボツリヌス中毒発生したと厚生省が発表された。その後、全国に広がり36名が中毒症状に陥り11人が死亡した。

 

 ボツリヌス菌はクロストリジウム属の芽胞を形成する嫌気性グラム陰性桿菌で、ボツリヌス菌が産生するボツリヌス毒素は運動・自律神経に麻痺をもたらす。ボツリヌス症は食中毒としてのボツリヌス中毒やハチミツの経口摂取による乳児ボツリヌス症が一般的。その他、創傷性ボツリヌス症や吸入によるボツリヌス症もある。ボツリヌス症は、曝露後半日~数日の潜伏期間を経て、頭蓋骨神経麻痺、散瞳、音声障害、嚥下障害などの初期症状を呈し、続いて呼吸器障害を伴った進行性弛緩性骨格筋麻痺に進行。ボツリヌス毒素は毒性が高く、バイオテロリズムにおいてはボツリヌス毒素のエアロゾル散布や食品へのボツリヌス菌混入による方法が考えられる。

 

 ボツリヌス菌は土壌や河川、動物の腸管などの自然界に広く存在し酸素の無ないところで増え、熱に非常に強い芽胞を作る、かなり危険な菌である。ボツリヌス菌はクロストリジウム属になり病院内における感染対策でも重要視されている。そのクロストリジウム属に対しての院内感染対策としては次亜塩素酸ナトリウム溶液などの中水準消毒以上での環境清拭などが有効である。

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ヨシダ製薬参照

 さて、熊本県香株式会社製造の真空パックからし蓮根における食中毒の原因は生からし粉から食中毒の原因となった同型のボツリヌス菌が見つかったため生からし粉が原因だとわかった。しかし、生からし粉にボツリヌス菌が混入した原因までの特定はできなかった。ボツリヌス菌は酸素が無いところで増える性質もあり真空パックからし蓮根は増殖に適した環境だったこともあり全国に広がり食中毒を発生させた。その後、からし蓮根の真空パック販売をやめ賞味期限を短くしたことでボツリヌス菌中毒はなくなった。

 

 

参考

熊本県衛生公害研究所

https://www.jstage.jst.go.jp/article/shokueishi1960/26/5/26_5_536/_pdf

日本食品衛生協会

http://www.n-shokuei.jp/eisei/sfs_index_s03.html

ヨシダ製薬

http://www.yoshida-pharm.com/2003/letter14/